電気は3分の2、ガソリンは1.5倍 — ブダペストで暮らすと何が変わるか
ハンガリーは「物価の安い国」として紹介されることが多い。EUの公式統計を見るかぎり、それは正しい。2025年のハンガリーの物価水準はEU平均を27%下回り、ラトビアと並んでEU最低だった。
ただし公的統計を品目まで下ろしていくと、その一言では捉えきれないことがわかる。電気代は名古屋の3分の2で済むが、ガソリンは1.5倍かかる。家賃は面積あたりの単価で見ると名古屋とほぼ同額で、その代わり部屋は1.4倍広い。
この記事では、日本の公的機関とEUの統計をもとに、ブダペストに移り住んだとき生活の何が変わるのかを、項目ごとに見ていく。筆者はハンガリーに住んだことがなく、体験談は書かない。数字で言えることの範囲に徹する。
- 在留邦人数
- 1,695人
- 物価水準(EU=100)
- 73
- 付加価値税
- 27%
- 年平均気温
- 12.6℃
出典:外務省(2025年10月)/Eurostat(2025年)/ジェトロ(2025年)/ハンガリー気象局(1991-2020年平均)
本記事の金額はすべて日本円で表記しています。ジェトロ調査の換算レート(1米ドル=147.23円、1米ドル=348.28フォリント/2025年7〜9月時点)から換算した、1フォリント=約0.42円を用いました。
ただし為替は変動するため、円換算額は目安として読んでください。とくに現地で働いて現地で暮らす場合、為替レートは生活実感にほとんど関係しません。見るべきは「現地の賃金 ÷ 現地の物価」であって、円に直した金額ではない、という点は頭に置いておきたいところです。
1. 日本人は1,695人。しかも減っている
SOURCE — 外務省 ハンガリー基礎データ
ハンガリーに住む日本人は1,695人(2025年10月、在留届出ベース)外務省 2025。名古屋市の一つの町内会くらいの規模になる。逆方向、つまり日本に住むハンガリー人は847人(2024年12月)なので、行き来はおおむね2対1の関係にある。
興味深いのは推移のほうで、2022年時点の在留邦人数は1,975人だった。3年で14%減っている。
これは少し不思議な数字になる。あとで見るとおり、ハンガリーでは賃金が急速に上がっており、現地の日系企業の業績も改善している。人が集まってもおかしくない条件がそろっているのに、日本人は減っている。
考えられる説明はいくつかある。日系企業の現地化が進んで駐在員が現地採用に置き換わった、という見方は自然だ。ただし公開されている統計だけでは確認できない。ここは答えを出さず、事実として置いておく。
人数は少ないが、ブダペストにはジェトロの事務所、国際交流基金の日本文化センター、日本人学校がある。文化センターは1991年に開設され、東欧など13か国を主管している外務省 2026。
在留邦人が数万人規模のバンコクやシンガポールとも、機能が何もない都市とも違う、中間の位置づけになる。
2. 品目で見ると、安いものと高いものが分かれる
SOURCE — ジェトロ 2025年度 投資関連コスト比較調査
ジェトロは毎年、世界の主要都市の生活・事業コストを同一の様式で調査している。2025年度は日本7都市と欧州17都市が対象になった。同じ調査、同じ換算方法で、名古屋とブダペストを直接比べられる。
※電気は名古屋が使用量により1kWhあたり21〜29円、ブダペストが約17円。中央値で比較した。比率は現地通貨から算出しているため、為替の影響を受けない。
電気が安い理由と、その脆さ
Eurostatによれば、2025年のハンガリーのエネルギー価格はEU平均の39%で、EU27か国のなかでもっとも安いEurostat 2025。同じ年のドイツが122%なので、3分の1以下ということになる。冬が長く暖房期間が長い国でこれは効く。
ただしこの安さは、公共料金の上限規制という政策に支えられている部分がある。地理や産業構造から来る恒久的な安さではなく、制度が変われば動く数字である点は覚えておきたい。
車を持つなら、燃料費は上がる
逆にガソリンは1リットルあたり約250円、軽油も約250円で、名古屋の168.2円・148.6円を大きく上回るJETRO 2025。日本のガソリン価格には揮発油税が乗っているにもかかわらず、それでもハンガリーのほうが高い。
ハンガリーは内陸国で、国土が平坦なぶん自動車移動が多くなりやすい。電気代で浮いた分が、車を使う生活だと燃料費で戻ってくる可能性がある。
3. 家賃は「安い」のではなく「広い」
SOURCE — ジェトロ 2025年度 投資関連コスト比較調査
今回いちばん意外だったのがここになる。ジェトロが調査した駐在員向け住宅の実例を並べる。
| ブダペスト | 名古屋 | |
|---|---|---|
| 物件 | アパート 80㎡ 2寝室+リビング、家具付、2区(住宅地) | マンション 2LDK 55.32㎡ 千種区今池、JR千種駅徒歩2分 |
| 月額 | 約25.4万円 599,738 Ft | 17.5万円 |
| 1㎡あたり | 約3,170円 | 約3,160円 |
面積単価が、小数点以下まで一致した。総額では45%の差があるが、1㎡あたりで見ると同じ。つまり価格が違うのではなく、借りている広さが違う。
これは移住判断としてまったく意味が違ってくる。「家賃が安いから生活費が下がる」と考えていると、実際には同じ金額を払って広い部屋に住むことになり、支出は下がらない。下がるのは金額ではなく、居住面積あたりの窮屈さのほうだ。
もっとも、これは1件ずつの実例による比較であり、市場全体の平均ではない。物件のグレードや立地条件も完全には揃っていない。あくまで一つの手がかりとして読んでほしい。
4. 「ヨーロッパは暗い」は、ここには当てはまらない
SOURCE — ハンガリー気象局 / 気象庁 平年値
気候はもう一つの意外な結果になった。ブダペストの年間日照時間は、東京とほぼ変わらない。年間降水量にいたっては東京の3分の1で、梅雨も台風もない。
| ブダペスト | 東京 | |
|---|---|---|
| 年平均気温 | 12.6℃ | 15.7℃ |
| 年平均最高気温 | 16.8℃ | 20.3℃ |
| 年平均最低気温 | 8.4℃ | 12.1℃ |
| 年間降水量 | 532mm | 1,598mm |
| 年間日照時間 | 1,988h | 1,927h |
ただし、配分がまったく違う。年間の合計は同じでも、月ごとに見ると関係が完全に逆転する。
※ブダペストの月別値と年間値は出典が異なるため、今後Copernicus ERA5への統一を予定している。
「ヨーロッパの冬は気が滅入る」という話は、年間平均ではなくこの落差から来ている。12月の日照は1日あたり1.7時間まで落ちる。年間日照時間だけを見て安心するのは危ない。
気温は内陸性で、日較差が10℃以上ある。冬の最低気温はマイナス5℃前後になる日が珍しくなく、夏は30℃を超え、年によっては40℃に達する。名古屋の感覚に翻訳すると「夏は名古屋より少し過ごしやすく、冬は名古屋の真冬がもっと厳しく、もっと長く続く」になる。
5. 物価はEU最安。ただし上がる速さもEU最速
SOURCE — Eurostat prc_ppp_ind_1 / prc_hicp_ainr
Eurostatは毎年、EU平均を100として各国の物価水準を指数化した「価格水準指数」を公表している。36か国・2,000品目以上の価格調査に基づく。2025年、ハンガリーの価格水準はEU平均を27%下回り、ラトビアと並んでEU最低だったEurostat 2025。
| 品目 | EU平均=100 | 年 |
|---|---|---|
| エネルギー(電気・ガス等) | 39 | 2025 |
| レストラン・ホテル | 72 | 2024 |
| 衣料 | 85 | 2024 |
| 家計消費全体 | 73 | 2025 |
ところが同じEurostatの統計を10年さかのぼると、逆の顔が出てくる。ハンガリーの消費者物価は2016年からの10年間で73.2%上昇しており、これはEU27か国で最も高い上昇率になるEurostat 2026。同じ期間のEU平均は33.0%、日本は年平均1.5%だった。
2025年の年間インフレ率も4.4%で、ルーマニア、エストニアに次いでEU3位の高さだった。一方で直近は落ち着いていて、2026年2月時点の前年比インフレ率は1.4%、食料はマイナス3.2%とデフレに転じている。
構造的に物価上昇が速い国だが、足元は急ブレーキがかかっているというのが2026年前半時点の正確な描写になる。移住を10年単位で考えるなら、いまの割安さが続く保証はない点は織り込んでおきたい。
6. 消費税27%が、毎日効いてくる
SOURCE — ジェトロ 2025年度 投資関連コスト比較調査
暮らしに直接効く税の話をしておく。ハンガリーの付加価値税は標準税率27%で、日本の消費税10%の2.7倍にあたるJETRO 2025。
ただし軽減税率が手厚い。医薬品、医療用機器、雑誌・書籍、豚肉・牛肉・羊肉・鶏肉、卵、牛乳、地域暖房、インターネットサービス、ホテル宿泊費などは5%。牛乳と乳製品、穀物由来の製品などは18%。つまり基礎的な食料品と医療にはほとんど税がかからない設計になっている。
一方で個人所得税は15%のフラットタックスで、日本の最高45.95%とは大きく違う。ただし社会保険料の被雇用者負担が18.5%あり、日本の12.22〜15.61%より重い。所得税と合わせると33.5%になる。
所得税15%という数字は、現地で働いて給与を受け取る人にしか効かない。年金や貯蓄の取り崩しで暮らす場合、所得税の低さからは何の恩恵も受けられず、付加価値税27%の重さだけを引き受けることになる。
日本とハンガリーは、税の設計がほぼ正反対にある。この構造をもう少し詳しく整理した記事を別途書いた。
7. 働くなら、あるいは学ぶなら
SOURCE — ジェトロ / 外務省
現地就職を考える場合の数字も置いておく。ジェトロがブダペストの日系企業39社に行った調査によれば、製造業の月額賃金(税引前)は次のとおりJETRO 2025。
| 職種(製造業) | 月額・税引前 | 現地通貨 |
|---|---|---|
| オペレーター | 約20.4万円 | 483,623 Ft |
| 技術職 | 約39.8万円 | 942,398 Ft |
| マネージャークラス | 約67.3万円 | 1,592,494 Ft |
| 法定最低賃金 2026年1月〜 | 約13.6万円 | 322,800 Ft |
| 同・熟練労働者向け 2026年1月〜 | 約15.8万円 | 373,200 Ft |
円に直すと低く見えるかもしれないが、現地で稼いで現地で使うなら、この円換算額にはほとんど意味がない。物価水準がEU平均を27%下回る国で得る67万円と、日本で得る67万円は、買えるものの量が違う。比べるべきは現地の賃金と現地の物価であって、円に直した数字ではない。
賃金の伸びは速く、2022年から2024年の名目賃金上昇率は18.2%、14.0%、13.0%だった。ジェトロが欧州の日系企業778社に行った実態調査では、中・東欧について「人材獲得競争が激化する」なかでベースアップ率の中央値が4%以上と特に高い水準にあると報告されているJETRO 2025。同じ調査で、中・東欧の日系製造業の黒字見込みは64.5%と、前年の52.4%から12.1ポイント改善している。
就労以外のルートもある。ハンガリー政府は1966年から日本人留学生の受け入れを行っており、2013年の文部科学省との覚書に基づいて日本人学生100名を対象とした奨学金プログラム「Stipendium Hungaricum」を設けている外務省 2026。学生としての滞在は、移住の入口としては現実的な選択肢のひとつになる。
8. 誰に向いて、誰に向かないか
ASSESSMENT — 上記データからの解釈
DATA SUGGESTS — 向く
- 在宅時間が長く、光熱費の比重が大きい人。エネルギー価格はEU最安
- 広い住居を求める人。同じ単価で名古屋の1.4倍の面積に住める
- 湿気と雨が苦手な人。年間降水量は東京の3分の1、梅雨も台風もない
- 現地で高い給与を得る見込みがある人。所得税15%フラットは高所得ほど効く
- 学生としての滞在を検討できる人。日本人向けの奨学金枠がある
DATA SUGGESTS — 向かない
- 冬の日照不足に弱い人。年間日照は東京並みでも、12月は1日1.7時間まで落ちる
- 年金や貯蓄で暮らす人。所得税の低さは効かず、付加価値税27%だけがかかる
- 車の利用が多い人。ガソリンは名古屋の1.5倍、軽油は1.7倍
- 10年以上の長期居住で「安さ」が主な動機の人。過去10年の物価上昇率はEU最高
- 日本人コミュニティの規模を重視する人。在留邦人は1,695人で、しかも減少傾向
この記事のデータについて
公開されている公的統計をもとに構成しています。数値の取得と作図はスクリプトによります。筆者はハンガリーに居住した経験がなく、体験談や生活実感は含みません。数字で言えることの範囲を明示することを優先しました。
| 在留邦人数・二国間関係 | 外務省「ハンガリー基礎データ」「海外在留邦人数調査統計」 |
| 生活・事業コスト、税率、賃金 | ジェトロ「2025年度 投資関連コスト比較調査」(欧州編・東アジア編) |
| 日系企業の動向 | ジェトロ「2025年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」 |
| 物価水準・インフレ率 | Eurostat(prc_ppp_ind_1、prc_hicp_ainr) |
| ブダペスト気候 | ハンガリー気象局(1991-2020年平均) |
| 東京気候 | 気象庁 平年値(1991-2020年) |
注意事項
- ジェトロ調査の換算レートは、ブダペストが2025年7月30日、名古屋が2025年9月1日時点のインターバンクレートによります。調査時期も1〜2か月ずれています
- 円換算は1フォリント=約0.42円で計算しました(上記レートから導出)。為替は変動するため、円建ての金額は執筆時点の目安です。一方でFIG.1の比率は現地通貨から算出しているため、為替の影響を受けません
- 住居費は市場平均ではなく、各都市1〜2件の実例です。物件のグレードや立地条件は完全には揃っていません
- 賃金はすべて税引き前(グロス)です。またブダペストは日系企業39社への調査、名古屋は愛知県人事委員会の調査(基本給、時間外手当を除く)で、定義が同一ではありません
- 付加価値税は標準税率のみを示しています。実際には5%・18%の軽減税率が広く適用されます
- ハンガリーには25歳未満の所得税免除など複数の特例があります。本記事では扱っていません
- 統計の参照年は項目により異なります(2022〜2026年)
- ビザ・在留資格は頻繁に変わるため本記事では扱っていません。ハンガリー政府および在ハンガリー日本国大使館の公式情報をご確認ください
- キービジュアルは筆者が作成した図版です
本記事は公的統計に基づく情報提供であり、移住の可否を助言するものではありません。実際の判断にあたっては、税務・法務・在留資格について専門家にご相談ください。